| ■敷地との出会い |
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Kさんの家は、余白の多い住まいです。それだけ、様々な方向に変化する可能性の高い家とも言えます。ご夫婦とこどもさんの、日常的な普段着の生活を、大きな屋根でやさしく包んで見まもる家です。しかし、この家の実現には、Kさんの大きな決断がありました。
最初にその敷地を知ったのは、「honさんどう思う、この敷地」といってfunさんから画像を見せられたときでした。Kさんが撮られたデジカメの画像です。緩やかな勾配に開ける田んぼの一角、まだ法的に住宅が建つかどうかもからない段階でした。香川県の西部という距離感と敷地条件の難しさ・・・、でも、メールからはKさんの住まいづくりへの熱意は伝わってきました。
後で、実際に敷地を見に行ったとき、Kさんのこだわりは瞬時に理解できました。北側の山を背景に、日当たりの良い南東斜面の緩やかな田園風景が広がります。川を挟んだ平野部分とその向こうの山々・・・敷地から見る景色も穏やかです。敷地の面積も100坪を超えています。普段の仕事の中ではなかなかお目にかかれない敷地条件、実際には様々な申請や手続き、造成などで時間はかかりましたが、この敷地との出会いがイメージの出発点になりました。
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| 敷地の西側の道路から1.5mほど下がっています。 |
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| 緩やかな傾斜のある田園風景が広がっています。 |
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| ■Kさんご夫婦との出会い |
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とにかく一度事務所に来ていただこうということになった段階でも、EDITとしてはまだこの仕事をお引き受けするかどうか迷っていました。設計は何とかなっても、遠隔地で施工をするtakさんの大変さを考えると、二の足を踏んでいたのです。
お目にかかったKさんご夫婦は、私たちに依頼される方の例に漏れず個性的でした。ご主人さんの趣味はヒップホップと自転車(容姿もそれらしい感じ)、奥さんは今の流行に左右されず、古いモノの良さを大事にしながらしっかりと生活したいという考えです。敷地への思いや住まいについて考えておられることが、断片的ながら湯水のように出てきました。私たちも偏ることなく、住まいについての様々なお話をさせていただきました。
その時に印象的だったのは、ご夫婦がそれぞれ志向が違う部分があるのに、その違いをお互いにとても尊重し合っておられること。そのお二人の愛情にこどもさんも包まれて育っておられることでした。帰られた後、takさんが「よし、やろう!」と言ってくれました。Kさんご夫婦の思いが、私たちをやる気にさせてくれたのです。
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| ■Kさんの暮らしぶりを拝見 |
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実際に動き出すとなると、敷地の条件を調査して、造成の方法や申請などについて検討しなければなりません。そこで、まずKさんの敷地を見に行きました(前述)。そしてその帰りに、Kさんのお住まいを訪ねることができたのです。ちょっと珍しいメゾネットのアパートで、2階がメインの生活の場、1階はご主人さんの趣味の部屋、ヒップホップのスタジオになっています。そこで様々なお話を聞かせていただきました。ヒップホップの何たるかを手始めに、友人の多いご主人さんの生活にも理解を深めることができました。
この訪問の少し前に、Kさんご夫婦はM邸の見学会に参加していただいており、特に奥さんからはM邸のような住まいが欲しいとお聞きしていましたが、建具に対するこだわりや料理道具の話などをお聞きしているうちに、Mさんとは少し違う点にも気付きました。確かに、両者とも自分が生活の中で大事だと考える部分にはこだわり、必要ないことはできるだけそぎ落とすような生活スタイルを持っておられますが、昭和40年代くらいに普通にあったさり気ないデザインのモノに価値を見出すMさんの奥さんに比べて、Kさんの奥さんは自分が育った背景にあった日本的な生活様式や空間に、よりこだわりを持っておられると感じたのです。このことは住まいのイメージをふくらませていく上で、大いに参考になったのでした。
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2004年12月、M邸見学会の様子。
住まいづくりに具体的なイメージが広がりました。
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Kさんのお住まいにお邪魔したときの一枚。シンプルな暮らしぶりが印象的でした。
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| ■プランニングの開始 |
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敷地の造成工事や手続きに時間がかかるため、プランニングはゆっくりしたペースで始まりました。敷地が広い割には、住まいはこぢんまりした規模で、予算から考えてもローコストのための工夫が必要です。Kさんご夫婦の希望である、人を驚かせるようなダイナミックな空間はいらない、家族がきちっと生活するために使える場が確保できればよい、ご主人さんの趣味であるヒップホップのスタジオを確保するという条件を形にしていきました。その結果、広い敷地を活かして、平屋のスタジオと生活の場である2階建ての母家を、指し掛けのような半外部空間で繋ぐことを考えました。駐車場の塀も加えて、高さの変化でリズム感が生まれるようにしようと思ったのです。母屋の1階には茶の間と台所、2階には自由に使える大きな部屋と浴室などを計画していました。
ところが、その浴室が問題になりました。2階に浴室を設置することは今や珍しいことではありませんが、どうしてもユニットバスの使用が前提となります。そのユニットバスを奥さんは使いたくなかったのです。かと言って、在来工法で浴室を造ると、防水層が切れて漏水する危険性をゼロにすることができません。全体のプランや形も気に入っていただいて、何とか予算の範囲に収まりそうだっただけに、この問題解決には頭を悩ませることになりました。最終的にはご夫婦とも仕方がないかなという顔をされたのですが、私たちとしてはどこかに不満が残る形で押し切りたくはありませんでした。
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| 最初の2階建て案の模型。右側がご主人の趣味のスタジオです。 |
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南側から。スタジオと母家を差し掛けのようなもので繋いだ半外部空間を提案しました。
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| ■プランニングの大転換 |
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ある日、私とfunさんは何とか浴室の問題を解決できないかと、浴室を1階に設ける案について検討していました。その時ふと、funさんが「階段がいらなかったら浴室が納まるのに・・・」と言葉を漏らします。それが、平屋への大転換のきっかけでした。
さっそく、平屋案の検討を始めます。それまで、別々にボリュームを分けていたスタジオと母屋の部分、そして差し掛けの半外部空間を、緩やかな曲面の屋根でひとつに覆ってしまう考え方です。確かに広い庭は確保できなくなりますが、大屋根の下に設けた路地のような通路や、徳島の古い民家で「オブタ」と呼ばれるような、屋根の架かった半外部空間が庭と一体化して、平屋ならではの伸びやかな空間の繋がりが生まれました。同じ床面積でも、横に部屋が連続する分、広々した感じになるのです。次の打ち合わせの時にKさんご夫婦に提示したところ、あまりの大転換に驚かれたでしょうが、いっぺんに気に入っていただけたのでした。
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| 平屋案の模型。屋根の低い部分からアプローチの通路に。 |
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南側には柱の並んだ半外部空間。
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| しかし、これにもひとつ大きな問題が・・・。建設費のコストアップです、しかも約1割も・・・。どうしても平屋にすると、基礎や屋根の面積が増えて、同じ面積の2階建てと比べて高くつきます。恐る恐る切り出したのですが、奥さんが一瞬落胆した表情をされたとき、ご主人が意を決したように「これだけ良い住まいを考えてくれたのだから、ボクはこの実現のためにもっと頑張って働く!」と発言してくださったのです。その時の奥さんの嬉しそうな顔をいまだに忘れられません。と同時に、私たちもホッとすると共に、この仕事をさせていただいていることに大きな幸せと責任を感じたのでした。
結局今考えると、この出来事が住まいの方向性すべてを決めた瞬間だったと思われます。ご夫婦の様々な細部へのこだわりをいかに設計に反映させるか、実際には頭を捻ったり工夫をしましたが、全体の指揮をとっていただいたfunさん、申請関係に動き回っていただいたyuuさん、遠隔地で施工の難しい建物を頑張って造ってくれたtakさんの思いを抜きに語ることはできませんが、そんなダイナミックな動きがあったことなど知らないかのように、Kさんの家は田園風景の中に静かに溶け込んでいます。
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| ■Kさんの思い |
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EDITでは前々から、住まいづくりはお施主さんと設計者と施工者のコラボレーションだと言っていますが、Kさんの家ほど、このことを強く実感した経験は、他になかったような気がしています。Kさんの住まいに対する思いの中で、コーディネーターのfunさんも施工のtakさんも、そして設計の私も生かされたというのが、偽らざる実感です。得難い経験をさせていただきましたこと、Kさんには感謝の言葉も見つかりません。
きっと、Kさんのご家族はこの住まいを生かしていかれるだろう、この家もきっとKさんのご家族をやさしく見まもってくれるだろうと思います。その意味では、家族と住まいのコラボレーションが幸せを生み出していくのかも知れません。だとすれば、いつまでもそれが続いていくように願っています。
設計担当:本田圭一
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