「設計者をうまく利用する」というと聞こえが悪いですが、これは言い方を換えれば、「設計者に気持ちよく仕事をする環境を与え、それで150%、200%の仕事をしてもらう」ということです。
本気で満足する住宅をつくりたいのであれば、是非そういう意味で「設計者をうまく利用」してほしいと思います。でもこれはけっして、設計者に全てを任せてしまう、設計者の好き勝手にさせる、ということではありません。
「敷地は広大。建物の面積、規模、予算は自由です。住む人は想定してください。どのようにしていただいても結構です。ひとつあなたの理想の住宅を設計してみてください。設計期限はありません」。こういわれて、ふつう設計できるものではありません。
逆に、「こんな狭い敷地なんです。予算はこれが精一杯のところなんです。でも、うちの家族のこれだけある夢や要望を何とか叶えることはできませんか?期限もさしせまっているんです」といわれた方が、設計者はフルイ立つものです。
厳しい設計条件に挑戦して自分なりの最適な解答を出す。多くの設計者は、このことに生き甲斐すら感じます。ですから条件はいくら出してもらってもいい。もちろん出来ることと出来ないことはありますが、初めから諦めてしまうことはありません。知恵を出せば、思いがけない解決策が見つかることもあります。だから設計者は、様々な個人の事情や、希望をどんどん聞かせてもらいたいのです。むしろ設計者にとって辛いのは、後で「ほんとはこうしたかったんだけどダメだと思って・・・」と後悔されることなのです。
そしてその場合の“設計料”ですが、これはもうこれまでお話してきたように、一律にイクラとは言えないものです。ですからその都度、設計者と話し合ってお互いの納得がいくように決めていくわけですが、そこで大切なことは、設計作業、設計業務とは、どのようなことをどういうふうに進めていくのか、その過程で設計者と依頼者がそれぞれしなければならないことは何か、などを十分話し合って、相互理解のうえでコトを進めていくということです。
よく言われているように、設計の作業はキャッチボールのようなもの。設計者と依頼者が、お互いに直接投げられたボールをうまく受け取って、気持ちよく投げ返す。それを繰り返しながら案をまとめていく。そういう作業です。その過程で、時には依頼者が思いもよらない暴投を投げたりすることもあります。しかしそれにも笑顔で応じるのがプロの設計者です。なかには恣意的に剛球を投げて驚かせたり、魔球のたぐいで素人を煙に巻いたりするプロもいるようですが・・・。
設計を進めるうえでもうひとつ大事なことは、予定している予算をざっくばらんに打ちあけ、設計料、工事費、諸経費などを含めたトータルな配分を設計者と一緒に考えるということです。設計者の立場からいうと、予算を正直に打ちあけられ、その中でできるだけ要望を取り入れてほしい、そしていいものを設計してほしい、といわれるとどうしても、その枠内で頑張らざるをえません。しかも、お任せしますので全体の中で設計料も決めて下さい、といわれると必要以上にはいいだせないものです。そのへんの心理をうまく突くのも依頼者として賢明な選択かと思います。
住宅の場合とくにそう思うのですが、設計者は依頼者のことが好きになれなければいい設計はできません。その人や家族のことを好きになり、生活や生き方を尊重する。そのような人たちの暮らしを少しでも楽しいもの、豊かなものにしてあげたい。力を貸してあげたいと思う。ちょっと傲慢かもしれませんが、設計者のそういう気持ちが設計における最大のエネルギーになるのです。また、設計者からみれば、ちゃんと設計料を払ってくれようとするクライアントは真剣で誠意ある人、です。当然気合いの入れ方や相手に対する思い入れも違ってきます。
それともうひとつ。設計者と依頼者はやはり価値観を共有することが大切です。住まいづくりについて何を大事にするのか。どこに費用をかけるのか。そういった依頼者の思いや希望を設計者が理解、共感し、設計者の提案に依頼者が同意、合意するということが鍵になります。逆にこれが初めからすれ違うと悲劇です。また、お互いに無理して合わせてもあとで必ず破綻がきます。共感、尊重しながらもお互い言いたいことはきっちり言う。それぞれのするべきことはちゃんとする。ただ何もかも窮屈にやると息が詰まるので、細かなところでは適当に許し合いや妥協もする。これって、考えてみると男女(夫婦)の関係と一緒かな・・・。ではそのような理想の設計者とどうすれば巡り会えるのか。その判断材料は何なのでしょうか。
彼がどのような仕事をしてきたか。これはもちろん大事です。これまでしてきた仕事を見せてもらうことは必要でしょう。しかし、それだけでは分からない部分もあります。住宅は同じ設計図で、同じ材料、同じ工場で、同じ品質管理のもとつくられている製品でも、同じ作家が、同じ工房で、同じ工程で、つくっている工芸品でもありません。その都度違う設計図によって、違う敷地に、違う材料を使って、違う職人が、違う依頼者のために、違う予算でつくるもの。ですから、その条件が一つでも違うと、全く違うものができる可能性があります。できあがった住宅を漠然と見るだけでは、そのあたりのことを見過ごしてしまう恐れもありますので要注意です。
それとやはり設計者は、最終的にその「人」を見ることが大切です。彼(彼女)が頼りになるのか、頑張ってくれるのか、真剣にこの仕事に取り組んでくれそうなのか、永く付き合えそうか等々。これがポイントです。また、私から見て、設計者という人種(とあえて言ってしまいますが)は、次のような性癖があります。ですから、それを踏まえたうえで、あなたに合った設計者を是非選んでほしいと思います。
・設計の条件が厳しいほど頑張ってしまう
・頼まれ、任されると必要以上に頑張ってしまう
・それも直接笑顔で頼まれたりすると、簡単に自分の採算を度外視する
・予算を正直に打ちあけられるとすこぶる弱く、その中でなんとか頑張ろうとする
・設計料のことであまりトラブリたくないと思っている
・依頼者からの信頼を人一倍望んでいる
・結局お人よしで単純である、などなど・・・
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